第六話 スロバキアの料理1-ブリンゾベー・ハルシュキ
平成28年8月31日

外国人が日本料理、と聞いて思い浮かぶのが寿司やてんぷらであるように、スロバキアで最も代表的な料理は?と聞かれれば、返ってくる答えは、このブリンゾベー・ハルシュキでしょう。ジャガイモをすりつぶし小さく丸めてパスタのように茹でたニョッキ(ハルシュキ)に、新鮮な羊のミルクで作った暖かいさらさらの生チーズ(ブリンザ)を絡め、そこにカリカリに焼いたベーコンを砕いてふりかけた料理です。
思うに、スロバキア人にとってのチーズは日本人にとっての味噌のようなもの。ともに発酵食品で毎日食べて体に良い食材です。いずれも様々な種類があり、料理の一品にしたり調味料として使ったりと色々な調理法があります。スロバキアではお店に様々な種類のチーズが並んでいて、人々はそれを様々な形で食べます。特に、ブリンゾベー・ハルシュキの場合、主材料の一つであるブリンザ・チーズはしぼりたての羊乳のこれまた生チーズなので、保存がきかず、冷蔵技術の発達した現在でもスロバキア国内でしか食べることができません。まさに地元の味なのです。
写真を見ていただいてわかるように、見かけは地味です。私は本年4月にスロバキアに赴任して最初にこの料理を食べたときに、正直言って塩辛いだけで、そんなに美味しいとは思いませんでした。しかし、二回、三回と食べていくうちに、生羊チーズ(ブリンザ)のフレッシュな香りと、モチモチとしたニョッキ(ハルシュキ)の噛みごたえ、更にカリカリベーコンの塩味と食感という「三位一体」の微妙なバランスに段々はまり込んでしまい、家族ともどもすっかりファンになってしまいました。今では、スロバキア料理の店に行くと、二回に一回はこの料理を頼んでいます。
昔、東京・新宿にある九州豚骨ラーメンのお店のカウンターで「一回食べるだけではこの店のラーメンのおいしさはわかりません。二回、三回と食べていただくと病みつきになるおいしさです」という張り紙がしてあったのを覚えていますが、この料理も同じで、一度食べただけではなかなかその魅力がわかってもらえない。そういう意味で、日本からこられたお客様には無理には勧めないのですが、旅行者の方には是非とも一度試していただきたいと思う次第です。
ちなみに、「ブリンゾベー・ハルシュキ」は前菜にもメイン・ディッシュにもなります。またお酒のおつまみにも適当で、スロバキア特産の生ビールにも、そして種類が豊富な地酒の赤ワイン、白ワインにもぴったりと合います。
一つサジェスチョンをさせていただければ、この料理はなるべくアツアツの内に食べることで、冷めてしまうと、「冷めたピザ」ではありませんが美味しさが半減してしまいます。また、スロバキアの料理は一皿が(日本人の感覚からすると)非常に多いので、友達や家族と一緒に食べるのであれば二~三人で一皿頼んで分けるか、一人で食べるのであればお店の人に小盛にしてもらうように頼むのが良いと思います。
私は料理には「足し算の料理」と「引き算の料理」があるのではないかと思っています。足し算の料理とは、絵でいえば油絵で絵具を塗り重ねていくように、様々な素材やソースを重ね、組み合わせ、複雑な味を作っていく料理で、伝統的なフランス料理が代表です。引き算の料理とは、よけいな調理や手間をできる限りそぎ落とし、技術によって素材のおいしさを徹底的に引き出そうとする料理。お寿司は後者の代表ではないかと思います。日本美術にたとえれば縄文土器と水墨画の対比、西洋の音楽に例えれば交響曲と四重奏やソロとの違い、ウィスキーに例えればブレンディッド・ウィスキー対シングルモルトのようなものでしょうか。
ブリンゾベー・ハルシュキは典型的な「引き算の料理」で、素朴と言えば素朴です。お寿司と異なるのは主材料が羊乳チーズとジャガイモとベーコンというコッテリしたものばかり三種類だということで、これでいかに飽きの来ない、あっさりとした味を出せるかというところが、料理する人の腕の見せ所だと思います。
最後に、日本人が毎日寿司と天ぷらばかりを食べているわけではないように、スロバキア人も毎日ブリンゾベー・ハルシュキを食べているわけではありません。あるスロバキア人の知人に言わせると、「スロバキア人が一番好きでしょっちゅう食べているのは、実はブリンゾベー・ハルシュキよりも、ヴィプラージャニー・スィールなんだ」ということです。
「ヴィプラージャニー・スィール」とは、一言でいえばチーズを揚げたものです。日本でも、お酒のつまみなので揚げチーズを見ることがたまにありますね。手のあまりかからない家庭料理です。スロバキア風に作るのであれば、まずチーズの厚さを1センチメートル弱位にすること。日本だったら大きめの塊のチーズ(溶けるチーズか、カマンベールやエメンタール等の柔らかめのチーズで、塩味が効いているもの)を切って、衣をつけてよく揚げることが適当です。そして、付け合わせにポテトを必ずつけること。これは子供が大好きな料理で、そして大人にとっても・・・特に生ビールには最高にあう美味です。
ただし,この料理は味もさることながら、カロリーの方も相当なので、食べた翌日にはジョギングするか、よっぽど歩かないと、いずれお腹が「ビール腹」になってくる心配もある点はくれぐれもご注意ください。
文責 日本大使 新美 潤(しんみ じゅん)
思うに、スロバキア人にとってのチーズは日本人にとっての味噌のようなもの。ともに発酵食品で毎日食べて体に良い食材です。いずれも様々な種類があり、料理の一品にしたり調味料として使ったりと色々な調理法があります。スロバキアではお店に様々な種類のチーズが並んでいて、人々はそれを様々な形で食べます。特に、ブリンゾベー・ハルシュキの場合、主材料の一つであるブリンザ・チーズはしぼりたての羊乳のこれまた生チーズなので、保存がきかず、冷蔵技術の発達した現在でもスロバキア国内でしか食べることができません。まさに地元の味なのです。
写真を見ていただいてわかるように、見かけは地味です。私は本年4月にスロバキアに赴任して最初にこの料理を食べたときに、正直言って塩辛いだけで、そんなに美味しいとは思いませんでした。しかし、二回、三回と食べていくうちに、生羊チーズ(ブリンザ)のフレッシュな香りと、モチモチとしたニョッキ(ハルシュキ)の噛みごたえ、更にカリカリベーコンの塩味と食感という「三位一体」の微妙なバランスに段々はまり込んでしまい、家族ともどもすっかりファンになってしまいました。今では、スロバキア料理の店に行くと、二回に一回はこの料理を頼んでいます。
昔、東京・新宿にある九州豚骨ラーメンのお店のカウンターで「一回食べるだけではこの店のラーメンのおいしさはわかりません。二回、三回と食べていただくと病みつきになるおいしさです」という張り紙がしてあったのを覚えていますが、この料理も同じで、一度食べただけではなかなかその魅力がわかってもらえない。そういう意味で、日本からこられたお客様には無理には勧めないのですが、旅行者の方には是非とも一度試していただきたいと思う次第です。
ちなみに、「ブリンゾベー・ハルシュキ」は前菜にもメイン・ディッシュにもなります。またお酒のおつまみにも適当で、スロバキア特産の生ビールにも、そして種類が豊富な地酒の赤ワイン、白ワインにもぴったりと合います。
一つサジェスチョンをさせていただければ、この料理はなるべくアツアツの内に食べることで、冷めてしまうと、「冷めたピザ」ではありませんが美味しさが半減してしまいます。また、スロバキアの料理は一皿が(日本人の感覚からすると)非常に多いので、友達や家族と一緒に食べるのであれば二~三人で一皿頼んで分けるか、一人で食べるのであればお店の人に小盛にしてもらうように頼むのが良いと思います。
私は料理には「足し算の料理」と「引き算の料理」があるのではないかと思っています。足し算の料理とは、絵でいえば油絵で絵具を塗り重ねていくように、様々な素材やソースを重ね、組み合わせ、複雑な味を作っていく料理で、伝統的なフランス料理が代表です。引き算の料理とは、よけいな調理や手間をできる限りそぎ落とし、技術によって素材のおいしさを徹底的に引き出そうとする料理。お寿司は後者の代表ではないかと思います。日本美術にたとえれば縄文土器と水墨画の対比、西洋の音楽に例えれば交響曲と四重奏やソロとの違い、ウィスキーに例えればブレンディッド・ウィスキー対シングルモルトのようなものでしょうか。
ブリンゾベー・ハルシュキは典型的な「引き算の料理」で、素朴と言えば素朴です。お寿司と異なるのは主材料が羊乳チーズとジャガイモとベーコンというコッテリしたものばかり三種類だということで、これでいかに飽きの来ない、あっさりとした味を出せるかというところが、料理する人の腕の見せ所だと思います。
最後に、日本人が毎日寿司と天ぷらばかりを食べているわけではないように、スロバキア人も毎日ブリンゾベー・ハルシュキを食べているわけではありません。あるスロバキア人の知人に言わせると、「スロバキア人が一番好きでしょっちゅう食べているのは、実はブリンゾベー・ハルシュキよりも、ヴィプラージャニー・スィールなんだ」ということです。
「ヴィプラージャニー・スィール」とは、一言でいえばチーズを揚げたものです。日本でも、お酒のつまみなので揚げチーズを見ることがたまにありますね。手のあまりかからない家庭料理です。スロバキア風に作るのであれば、まずチーズの厚さを1センチメートル弱位にすること。日本だったら大きめの塊のチーズ(溶けるチーズか、カマンベールやエメンタール等の柔らかめのチーズで、塩味が効いているもの)を切って、衣をつけてよく揚げることが適当です。そして、付け合わせにポテトを必ずつけること。これは子供が大好きな料理で、そして大人にとっても・・・特に生ビールには最高にあう美味です。
ただし,この料理は味もさることながら、カロリーの方も相当なので、食べた翌日にはジョギングするか、よっぽど歩かないと、いずれお腹が「ビール腹」になってくる心配もある点はくれぐれもご注意ください。
文責 日本大使 新美 潤(しんみ じゅん)