第十五話 コシツェの「日本ウィークエンド」

平成29年4月3日
      この3月に、スロバキア第二の都市、東部にあるコシツェ市に行ってきました。日本大使としてスロバキアに赴任して以来二度目の訪問となります。今回はコシツェ市の「日本好き」の人々が集まって始めた「日本ウィークエンド」の催しが十周年を迎えるとのことで、主催者の方々から御招待をいただいて訪れることとなったものです。
 
     スロバキア国内では毎年、各国の文化を紹介する様々な行事が行われています。特に首都ブラチスラバでは、季節が過ごしやすくなる春から夏、そして秋にかけて、屋内・屋外のあちらこちらで、種々の文化イベントが、毎週どこかで行われます。これらの殆どは、在スロバキアの各国の大使館が主催したり、あるいはこれらがスロバキア政府や地方自治体などの関係機関と協力する形で行っているものです。
 
     これに対して今回訪れることとなった「日本ウィークエンド」は、日本の文化に関心を持っているコシツェ市在住のスロバキア人の方々が自発的に、いわば手作りで始めたイベントです。「官」が直接関与していないユニークな存在です。数年前から日本大使館も協力させていただいていますが、あくまでも主体はスロバキアの人々です。
     十年前の第一回日本ウィークエンドは、「日本オタク」とも言える日本好きの方々が数人で始めた小さな催しだったそうですが、十年経った今では、百人近くの人々が関与し、コシツェ市のみならず近県や国外からも多くの人々が訪れる立派な催しへと成長しています。
 
     3月18-19日の週末を使って行われた十周年記念日本ウィークエンドに、私は土曜日の午前中、会場に顔を出させていただきました。天気はあいにくの雨模様でしたが、既に沢山の人々が集まりだしていました。
     プログラムによれば二日間にわたり何十もの行事が行われる予定です。その一部だけでもご紹介すれば、まず武道系では合気道や柔術、剣道、空手、弓道、更には忍術(!)などの様々な日本の武道の実演が行われます。教室系では、座禅教室、囲碁教室、将棋教室、そろばん教室、書道教室、折り紙教室、着物の展示や着付け教室などが予定されています。日本文化の紹介という面では、日本の刀剣の展示紹介、盆栽紹介、日本茶紹介、日本のウィスキー紹介、日本酒紹介、日本の備前焼紹介、日本映画上映などが予定されているとのことです。巻き寿司など日本食や、様々な日本関連グッズを売る屋台も数多く出ているようです。目先の変わったところでは日本のロボット技術についての講演も予定されています。これはコシツェ工科大学が人工知能やロボット研究で日本の諸大学と種々の協力を行っていることから、同大学の教授が説明をしてくださるとのことでした。
 
     日本ウィークエンド十周年の開会式でご挨拶をさせていた後に、主催者の方々の案内でいくつかの武道の実演や教室などを見させていただきました。日本映画の試写と日本酒の試飲の二つは、日本大使館から側面支援させていただいたイベントです。色々な行事に、スロバキア人のみならず、隣国のハンガリーやチェコなど他国から参加されている方々が多いことに印象づけられました。少々びっくりしたのは、米国のカリフォルニア在住のスロバキア系米国人で、日本の刀剣の収集家の方が、自分のコレクションを持ってコシツェのこの会場まで来られていたことでした。アメリカの西海岸でも日本の刀剣鑑定・収集に関心を持つ人は多く、収集家同士が交流する大きなマーケットのようなものがあるとのことでした。
 
     懐かしい日本の文化がスロバキア人によって様々な形で紹介されているのに心を動かされました。特に個人的には、自分が子供時代に習った「そろばん」に久しぶりに触ったのが印象的でした。人間の脳とは不思議なもので、数十年ぶりにもかかわらず自分の指はそろばんの玉のはじき方をきちっと覚えていました。電卓の普及により日本ではそろばんはすっかり廃れてしまったと聞いていますが、指を使って数学的に物事を考える「そろばん」の練習は脳の発達にとても良いとの研究もあり、スロバキアはじめヨーロッパでもそろばんを習う子供が少しずつ増えているとのことでした。
 
     時間の関係もあり全体のイベントの半分も見ることができませんでした。特に「忍術」の実演は是非とも見てみたかった気がします・・・。
 
     文責 日本大使 新美 潤(しんみ じゅん)