第十八話 日本と言えば「白い犬」

平成29年6月1日
     スロバキアには50社以上の日系企業が進出し、200人以上の日本人が在住しています。
     国内には日本食レストランがあちらこちらにあり、数知れません。そのほとんどはスロバキア人による経営ですが、最近になり日本人がシェフを務めるラーメン屋さんや同じく関西料理店(お好み焼きなど)がブラチスラバ市内に新たにオープンしました。日本人が握るお寿司屋さんも近々開店する予定です。
     スロバキアでは空手、合気道、柔道など日本の武道も盛んです。盆栽をはじめとする日本文化に関心を持つ方も多いです。欧州の他の国と同じように街には日本車などの工業製品があちらこちらで見られます。
     このように、スロバキア人の生活にとって日本の存在は、主として「食」や「モノ」を通じて、少しずつ身近なものになりつつあります。
 
     とはいうものの、スロバキアのほとんどの人々にとって、日本はやはり遠いアジアの国であり、エキゾティックな存在にとどまっているような気がします。
 
     ところで、首都ブラチスラバには近代的なショッピングモールが沢山作られており、私は週末に妻といっしょにウィンドー・ショッピングに行くことがよくあります。多くの人々が楽しそうに歩いていますが、ふと周りを見ると、私と家内以外のモール内のすべての人々がコーカソイド、すなわち白色系の人々であることに気が付いて、びっくりすることが時々あります。
     スロバキアは欧州において、国内にイスラム教のモスクが一つもない唯一の国だ、とも言われています。いわゆる移民を含め外国人居住者の数が少ないのです。ある意味で、ヨーロッパ諸国の中で最もヨーロッパ色が濃い国なのかもしれません。それはスロバキアという国の強みにもなりえます。
 
     話が少々脱線してしまいましたが、このような中で、スロバキアと日本の人々を繋ぎ、また、日本という国の文化や社会、そして魅力をスロバキアの人々に伝えることが、在スロバキア日本国大使館の使命の一つでもあります。様々な文化行事や講演等を通じて、広報に努めているところですが、最近になり、比較的年齢層の高いスロバキア人の方々から、「日本って言えば、「白い犬」だよねぇ」と言われる機会が何回かありました。
 
     「白い犬」?
 
     と言われて私は全くピンときませんでした。そこで更に聞いてみると、今から30年ほど前に、スロバキアのテレビで「白い犬」という題の日本の連続ドラマが広く放送され、それが当時のスロバキア人の子供たちの間で結構人気だったというのです。
     ドラマの主人公は白い犬「Goro」と日本人少女。ゴローは何らかの理由で飼い主離れ離れになってしまい、長大な距離を、様々な妨害や困難に会いながらも走りに走って、最後は飼い主と再会する、というあらすじだそうです。
 
     大使館のスロバキア人職員に聞いてみると、それは1980年に9回にわたり、日本テレビ(民放)で放映された「黄金の犬」というタイトルの連続テレビドラマで、スロバキアで放映されていた「白い犬」でした。
 
     このドラマは、ユーチューブで「goro bily pes」(ゴロー 白い犬)と検索すると今でも部分的に見ることができます(スロバキア語版)。また「黄金の犬」と検索するとオリジナルの日本語版も少しだけ見られます(いずれも5月現在の情報です)。
 
     あらすじは、東京から(日本の北にある)北海道に熊狩りに連れていかれた白い犬「ゴロー」が、怪我をした飼い主と現地ではぐれてしまい、様々な困難を乗り越えながら、数百キロを踏破して東京の家まで自力で戻ってくる、という話のようです。
 
     当時、この日本のドラマがどうして多くのスロバキア人の心をつかみ、そして現在でも記憶されているのでしょうか。理由の一つは、やはり主人公が愛らしい犬であり、さらに言えば副主人公が(日本人の)けなげな女の子であり、彼らが助け合いながら数々の困難を乗り越えてご主人様のところに戻る、という設定にあったのではないかと思います。
 
     スロバキア人は「義理、人情」を大事にする民族のような気がします。肌の色や文化の背景は異なりますが、気質や性格は日本人に近いものがあるような気がします。わかりやすく言えば、両者は「相性」が良いのではないか、ということです。これは私だけがそのように思い込んでいるわけではなく、スロバキアに投資し事業を展開しておられる日本人ビジネスマンの方々からもよく聞く話です。
 
     スロバキア人の多くは犬をはじめとする動物が大好きです。ペットを飼っている家が非常に多いですし、公園にいくと犬連れの人々が数多く見られます。日本と異なり、ショッピングモールや喫茶店のほとんどが犬連れでもOK、というのも嬉しいです。
 
     「人は人を裏切るときがある。人は動物を裏切るときもある。動物は、人を裏切ることさえ知らないのに」という格言があります。動物を愛するのは人間の自然な心情です。そんな気持ちが、「白い犬」を通じてスロバキアと日本をつなぎました。
 
     文責 日本大使 新美 潤(しんみ じゅん)