第二十五話 そうだ、日本に行こう!

平成30年3月21日
     観光等のために日本を訪れる外国人の数が、ここ数年急増しています。日本政府観光庁の統計によれば、2011年には622万人だった来日客数が、昨年2017年には2869万人と4倍以上の数となっています。東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年には4000万人とするのが日本政府の目標です。
     国別にみると、最も多いのは韓国、次は中国からの訪日客ですが、欧州の各国からも毎年、より多くの人々が日本を訪問するようになっています。
     日本では、英語での応対や英語での表示をはじめ、初めて訪れる外国の人々でも不便なく、楽しく滞在してもらえるよう、官民を挙げて「おもてなし」のための努力と整備をしています。
     自分でいうのもなんですが、日本人はホスピタリティの精神に富んだ民族だと思います。我々は、遠い外国からわざわざ日本に来ていただく方々をおもてなしするのが好きなのです。
 
     スロバキアから日本を訪問する人が毎年何人いるのか、残念ながら手元に統計を持っていません。日本に関心を持ってくれるスロバキア人の数は年々増えている、と実感していますが、実際に訪日するスロバキア人の数はまだ限られていると思います。より多くのスロバキアの方々が、日本を訪れ、日本人と交わり、日本のことを知って、日本のファンになっていただければ、と思います。
     スロバキアと日本の間は相互で「査証免除」になっており、スロバキア人の方々はビザなしで訪日することが可能です。
     特に、18歳から30歳までのスロバキア人であれば、一昨年6月に日本とスロバキア両国の間で締結された「ワーキングホリディ制度」により、最長1年間まで、日本で働いてお金を稼ぎながら、日本に住み日本を見て回ることが可能となりました。若い方々は、是非この新制度を活用していただければと思います。
 
     ところで、知り合いになったスロバキア人から、「日本を訪問するなら、どの季節に行ったらよいだろうか?」と尋ねられることが良くあります。
     そんな時、私は、日本の10世紀-11世紀に、清少納言という女性作家(随筆家、歌人)によって書かれた「枕草子」の一節をまず紹介することにしています。少し長いのですが、以下紹介します。
     「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
     夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし。
     秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、鳥の寝所へ行くとして、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。
     冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼なりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。」
 
     要するに、日本には四季それぞれ美しさがあって、どの季節に日本を訪れても、それなりの魅力があるということです。
     春には桜が満開となって咲き、野山が桜色に埋まります。冬が終わり暖かくなった気候の下、桜の木々の下でお弁当を広げながら皆でお酒を酌みかわす「花見」は日本独自の野外宴会です。
     日中の陽光の下で見る桜花ももちろん綺麗ですが、日が暮れた夜空の中にくっきりと浮かび上がる桜花の薄紅色も、なまめかしく魅力的です。何百本も咲きみだれる「桜の園」は豪勢で美しいですが、新緑の野山や街角に一本だけぽつんと咲く桜花も、また風情があるものです。春が来て、あちこちで咲きだす桜花は、生命の息吹を人々に感じさせますが、盛りを過ぎてハラハラと散りだす桜花に下にいると、なんとも言えない命の切なさと美しさを感じます。
     桜には実に、様々な楽しみ方があります。
 
     夏には暑い中、各地で夏祭りや盆踊りが行われます。お寺や神社の境内に、様々な食べ物やお土産を売る沢山の屋台が立ちならびます。涼風が吹きだす日没後、人々は浴衣を着て、うちわを扇ぎ、涼をとりながらあたりをそぞろ歩きします。
     かき氷、井戸水で冷やした西瓜、そして夏バテした体に精をつけるためのウナギのかば焼き等、夏ならではの食べ物も色々とあります。
 
     秋には紅葉が野山を埋めます。地面に敷き詰められて赤と黄色の絨毯のようになった落ち葉を踏みしめながら散策します。落ち葉をかき集めてたき火を起こし、そこで芋や栗を焼いて食べることもあります。
     「食欲の秋」といって、秋には野菜、キノコ、魚などなど、様々な食べものが収穫期を迎えます。新米が町に出回って、人々の舌を喜ばせます。
     秋は空気が特に清澄になることもあり、夜空がくっきりと見えます。満月の夜、お月様に餅団子を備え、縁側で酒を酌み交わしながら「お月見」をします。
 
     日本の冬、太平洋側の地方は晴天の日々が続きます。寒くなりますが、空気が乾いてさわやかな毎日です。他方、日本海側の地方や北海道には雪が沢山降って、一面雪景色になります。スキーをするには最高の良質の雪―サラサラの「パウダー・スノー」―を狙って多くの外国人がスキーにやってきます。
     特に年末年始には、日本人にとって最大の行事である大晦日とお正月があります。12月31日から1月3日にかけて、多くの善男善女が、これから一年間の家内安全や商売繁盛を願って、お寺や神社にお参りに行きます。この時期には着物を着て歩く人々も多く、また、町々の角はお正月のための飾りつけでカラフルになります。町全体の装いがトラディショナルに変貌して、過去にタイムスリップしたように感じます。
 
     日本人の私から見ると、欧州の四季は、夏と冬は長いのですが春と秋は非常に短いように感じます。夏から冬、冬から夏へあっという間に季節が移り替わってしまいます。それに比べ、日本の自然は四つの季節がそれぞれより独立しており、はっきりしているような気がします。
 
     日本の季節折々の自然の移り変わりは、いかにも儚いが故に、魅力的です。その四季の移り変わりに合わせた日本の様々な伝統文化や食文化、生活様式が今でも生きています。

     そうだ、日本に行こう!

     文責:日本大使 新美 潤(しんみ じゅん)